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チームで作り上げれば、いま世の中にないものも必ず実現できる[すみだモダン×スタイルストア]

2021年04月28日更新

墨田区で70年以上にわたり金属プレス加工業を営む昌栄工業株式会社。絞りの加工技術をメインとしていた企業がなぜ、ホーローブランド「kaico(カイコ)」を立ち上げることになったのか。代表の昌林賢一さんに話を伺いました。

建築業界から一転、複合加工技術のプロへ

昌栄工業株式会社の歴史について教えていただけますか?

昌林さん:1947年に金属プレス加工の工場として創業しました。私が3代目になります。創業時は、ブリキのおもちゃや双眼鏡のパーツなどを作っていました。代表的なものとして、ベビーカーの車輪の支柱を丸パイプに変え、穴を開けることに初めて成功しています。ホーローメーカーと仕事をするようになったのは今から約50年前です。

昌林さん:私が昌栄工業へ入社したのは今から約20年前になります。もともと建築物が好きだったこともあり、建築のメーカーに就職しました。会社を継ぐつもりはなく、自分の道を進もうと思っていました。しかし、私が30歳を過ぎた頃、工場からプレスの音が聞こえなくなっているなと気づいたんです。両親から経営が悪化していると聞いたのは、ちょうどバブルが崩壊した頃です。私はすぐ会社に辞表を出しました。

実家の会社を立て直すために以前勤めていた会社を退職するも、これまで建築業界にいたため金属プレスのことは何も分からなかった昌林さん。仕事が減っていくなか、新しい分野の仕事をしようにも設備投資をする費用がなく、社員も雇えない状態だったといいます。

昌林さん:あの時は本当になんでもやりました。仕事がないのでプレス以外の切削加工とか、鋳物、木工なんかもやりましたね。その分野のプロと肩を並べられるくらいになるまで勉強しました。大変でしたが、その努力があってさまざまな加工の技術を得られたことはよかったと思っています。弊社のモットーである「複合技術を活かしお客様のニーズに応える」ということができるようになりました。当時の苦労が今の会社の基盤になっていますね。

消滅寸前だったkaicoブランドを、デザイナー・販売会社と力を合わせて建て直す

これまでBtoB向けの商品を作ってきたなかで、一般消費者向けのキッチン用品であるkaicoを作ることになったきっかけは何ですか?

昌林さん:大阪のとあるホーローメーカーから「これまでホーロー業界になかったものを作りたい」と声をかけていただいたのがきっかけです。弊社とデザイナーの小泉誠さんが協力というかたちで、約1年かけて立ち上げました。

しかしその後、メーカーが倒産してしまったんです。倒産する際にメーカーの社長から「kaicoだけはどうしても無くさないでほしい」と強い要望があり、現在の販売会社であるFORMLADY(フォームレディ)の社長さんと一緒に来られました。当時は私の父がkaicoに携わっていたのですが、「この話どう思う?」と相談され、私は「あの人だったらいいんじゃないかな」と言ったのを覚えています。

そして、昌栄工業がブランドをもち、FORMLADYさんが販売を担うことでkaicoブランドを存続させました。すごく大変でしたが、kaicoを軸にお互いを信頼し、サポートしあいながらkaicoを支えてきたと思っています。

kaicoの製品作りについて心掛けていることがありましたらお伺いしてもよろしいですか?

昌林さん:kaicoは現在、特別色や企画限定品を合わせると約40アイテム、年間総販売数は約1万個。これだけの規模のブランドを10人くらいの会社が維持していくっていうのはすごく大変です。環境も厳しいですし、常に目を光らせて見えなくなるところまで気を配っています。

例えば、弊社で金属加工を行った後、別の工場でホーロー加工するのですが、その加工がしやすいようにすること。そして、問題が起きないようにすること。自分の工場での加工が終わればいいとは思ってないですね。

昌林さん:通常のホーローってエッジが黒く、これを焼き切れっていうんですが、kaicoは白く仕上げています。これまでホーロー業界ではしてこなかったことです。

昌林さん:例えばドリップケトルは、大きな開口部分や、逆三角形の湯口が特徴です。大きな開口により洗いやすく、また、湯口を逆三角形にすることにより、細く真下に注ぐことができるのでコーヒーを安定して均一に淹れられます。デザイナーである小泉さんの、「ホーローの都合ではなく使う人の都合」「使う人のデザインを大事にしたい」という考えからできたものです。

自分にしかできないことを何でも挑戦していきたい

自社で作るだけでなく、製品作りのためのコーディネートもしている昌林さん。現代の生活に馴染む方法、生産方法があるんじゃないかと常に試行錯誤しています。会社に合わせてモノがあるのではなく、モノに合わせて生産方法や商流形態を変えていく。自ら制限を設けている工業界が変わる見本になりたいと昌林さんはいいます。

昌林さん:ものづくりをするとき、金属以外の加工を各分野のプロにお願いしても難しいと言われることがある。そういう時は、「ここまでは昌栄工業で加工するから、フォローしてくれますか?」と聞くと「それならできる」と言ってくれる企業は多いんです。自分の会社にモノを合わせてしまってるんですね。その人たちと一緒に考えて、チームで作り上げれば世の中にないものも必ず実現できると思っています。そうやってできたのが実はkaicoなんです。

昌林さん:また、kaicoのドリップケトルで、墨田区のみで限定販売している「墨桜」という桜をイメージしたピンク色のケトルがあるんですが、次は世界で販売したいと思っています。

日本のピンク色って世界に誇れる色だと思っているのですが、実は海外ではピンク色というのはあまりいいイメージがなかったようです。墨田区から世界へ「墨桜」を通じて日本の優しいピンク色を世界に知ってほしいですね。

今後の展望をお聞かせいただけますか。

昌林さん:「自分にしかできないことを何でも挑戦していきたい」と思っています。新商品を出す、新分野に進出したいというより、いま自分を取り巻いている環境、いただく仕事を一つずつこなしていきたいと思っています。なかには難しい話もありますが、頼られていると実感しますし、わくわくしながらやっていますよ。

目の前の仕事を確実にこなしていく昌林さんには、仕事に対する丁寧な姿勢、また、新たなことにチャレンジしていく思いが感じられました。ホーロー製品において、昌栄工業でしかできないのものづくりに目が離せません。

工場入り口の看板はなんとホーロー製。デザインは小泉誠さんが手がけています。

つくり手、デザイナー、販売会社の3社がチームとなって作り上げているkaicoは、細部までこだわり抜いたシンプルなフォルムと美しいデザイン。そして使う人への思いやりが感じられます。ぜひ手に取ってその素晴らしさを感じてほしいです。

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文・構成/やまちの

このコラムを書いた人

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