すみだモダン×スタイルストア

使い手への思いやりをかたちにする、稀有な職人と稀有な技術[すみだモダン×スタイルストア]

2021年09月14日更新

70年以上の長きにわたって墨田区・東向島の地でバッグや財布などの革製品を作り続ける二宮五郎商店。素材を知り尽くし、使う人のことをとことん考える二代目の二宮眞一さんと、高い技術力を持つ職人集団だからこそ作り出せるレザーグッズの数々は、すみだモダンにも複数回選出され、こだわりのある使い手から根強い支持を集めています。

今回は二宮さんに、二宮五郎商店の歴史やものづくりへの信念、体型が変化しても使い続けることができる「あな」がないベルト誕生の裏側をお伺いしました。

他にはいない職人、他ではできない技術

―二宮五郎商店の歴史を教えてください。

二宮さん:二宮五郎商店は私の父が1946年に創業しました。父は元々、丁稚として浅草の革問屋に勤めていたのですが、後に独立して商売を始めました。最初は革の販売から始め、だんだんと製品を作る方へシフトしたんです。縁あってシチズンの時計バンドの製造を一手に引き受けるようになり、来る日も来る日も時計本体にうちで作ったバンドを取り付けていました。ただ、それでは他の物が作れないからと、その仕事を他社に譲ってしまったんです。そこから、ハンドバッグや男性物のバッグなど色々な物を作るようになりました。

私の代になってからは、バッグよりも小物が主流になりました。バッグ一つを保管するスペースにお財布なら何十個も入る。すごく合理的ですよね。先代の父も「小物は場所取らないしいいね」と言っていました。

―バッグと小物ではミシンなどの設備も変わるんじゃないですか?

二宮さん:全然違いますよ。作るものによって設備が違うから、この業界はすごく細分化されているんです。ハンドバッグ専門の職人もいるし、財布にファスナーが有るか無いかでも職人が分かれます。でも、「あれはできるけどこれはできない、というのは職人ではない」と私は考えています。

そんなわけでうちの職人さんは多芸になったんですね。一人で何でも作れますよ。よその会社だとそういうことは稀です。とにかく他ではやらないことをしよう、ということで今までやってきましたから。一人ひとりが色々なチャンネルを持っていないと良い商品は作れないんです。

―技術のある職人さんがそろっているんですね。

二宮さん:私がこの世界に入った時に、「有名ブランドにもできない技術を持とう」と思ったんです。

例えば、財布などには「風琴マチ」という製法を取り入れています。先代の時からの技術です。普通は、カード入れの蛇腹の部分を内側に革を折ることで作りますが、うちでは外側に折っているんです。だから入れる物の角が折れたり汚れたりしません。これは型紙が非常に緻密で、難しい技術なんですね。技術があるからできる。最高の物を求めて作る、というのが職人の世界です。そんな良い製品を作れるようにしています。

―二宮さんにとって「良い製品」とは、どんなものでしょうか。

二宮さん:「どこがいいの?」と言われるようなものが、良い製品ではないでしょうか。風琴マチなんて、外国の方から「どこからそんな発想が生まれるの?」と言われますよ。

日本の職人が他と違うのは、使い手のことを徹底的に考える思いやりの心だと思うんです。徹底的に考えると、ここはもっとこうあるべきだ、ということが浮かび上がってきます。

良い製品を作ると、どんどん外の世界に影響を及ぼしていきます。商品を見つけて買ってくれる人がいて、それを見てまた「いいね」と思ってくれる人がいる。そうやって広がっていくのが嬉しいですよね。

素材もデザインも、徹底的に考え抜く

―「あな」がないベルトは、どういった経緯で生まれた製品なんですか?

二宮さん:ベルトって昔から、世界中のどのブランドでも、素材の違いはあれど機能も見た目も一緒。それはなぜか?というところから考えたんです。一般的なベルトは真っ先に穴が痛んできます。体形が変化して穴の位置が変わると、こんどはそれまで留めていた穴がくたびれて見えますよね。それを何とかできないか、と。また、これまでにも他のメーカーさんが穴のないベルトを数種類作っていますが、使ううちにズルズルと緩んでしまい不完全だと思いました。

―どうやってデザインしたんですか?

二宮さん:うちの製品は全て私自身がデザインしています。凝り性なので、やるなら徹底的に。

ベルトの金具などの資材もほとんどオリジナルで作っています。そして実際に使い込んで改良を重ねています。このベルトの8の字のバックルは、金型も何個も作ってようやくマッチするものを見つけました。

素材も適したものでないと良い製品ができません。革の素材は牛の肩口の革を採用していて、ベルト用としてはこれが最適だと考えています。うちが直接輸入している革で国内ではあまり出回らないものです。

一般的な革のベルトは引っ張るとねじれるんですね。なぜかというと、革を縦方向に裁断しているから。そうすると革の繊維の特性でねじれてしまうんです。うちでは牛革の中でも特に繊維が緻密な牛の肩口の革だけを横方向にとるんです。そうするとねじれずに真っ直ぐなベルトになります。

二宮さんが実際に5年使用している「あな」がないベルト

自分で実際に使ってきて、このベルトは本当におすすめできる商品。5年使って少々の使用感はあるけれど、きれいな状態です。普通のベルトならボロボロになりますよ。

時流を読む。二宮五郎商店のこれから

―これから、どんな製品を手掛けていきたいですか?

二宮さん:何かの分野に特化しているというより、革で作れるものなら何でも作りたい。今後は時代に合っている製品をより増やしていきたいです。他社製品を購入して研究も欠かしません。頭の中には新製品のアイディアがたくさんあるんです。

今のニーズに合っていて、かつ、使う方が「さすがあの人が持ってる物は違うな」と思われるような個性が見えたらなお良いですよね。

それと、使う方みんなが幸せになってもらいたいと本気で願っているんです。5年ほど前から、できた製品を月に一度神社に持って行って、使う方の心願成就を願ってご祈祷していただいています。

―会社として目指していく方向性はありますか?

二宮さん:今は長男が製造責任者です。私はと言うと、自分の時代は終わったな、なんて最近つくづく思いますよ(笑)。でもね、うちがやることは、とにかく製品を作るということ。

会社のロゴは二宮さん自身がデザインしています

それから、SDGsの視点から革の魅力も伝えていきたいです。

実は、革って他にはないくらいエコで時代に合った材料なんです。何せ食べ物の副産物ですから。焼却しても有毒なガスが出ないし、そのまま埋めたら土に還る。金具は他の製品に再利用することもできます。

エコを考えるなら、一つの物を長持ちさせるということも大事です。長く使えるものを作ることが我々の務めですね。このベルトは長持ちしますよ。壊れる要素も、弱くなっていく部分もない。時代に合った製品ですよね。

時代の流れを確かにとらえながら「他にはないもの」を目指して日々技術を磨き、製品を作り続ける二宮五郎商店。素材からも、デザインの細部からも、細やかな気配りを感じます。「あな」がないベルトは、こだわりを持った方にこそ手に取ってほしいアイテムです。

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文・構成/シマサキアヤ

このコラムを書いた人

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