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「愛着をもって長く使える商品を作りたい」100年以上受け継がれたきた伝統の職人技[すみだモダン×スタイルストア]

2021年09月29日更新

宇野刷毛ブラシ製作所は現在三代目である宇野千榮子さん、三千代さん親子が二人三脚で先代の技術を引き継いでいます。今回は宇野三千代さんに工房の歴史や、商品への想い、「雅ブラシ」と「アニマルブラシ」誕生について話を伺いました。

時代の移り変わりとともに始まったブラシづくり

ー宇野刷毛ブラシ製作所の歴史について教えていただけますか?

宇野さん:大正6年に私の祖父が刷毛の工房を創業したのが始まりです。当時は主に糊付けの際に使用する、「糊刷毛」を作っていました。毛先を揃え根元を板で挟み、糸で綴じてつくる綴じ刷毛ですね。

昭和に入り、現在の場所に移転してきました。祖父は使う人との接点を持ちたいとの思いでこの場所を選んだそうです。

沢山のお客様に恵まれ、色々な刷毛を作るようになったようです。今でも続くYシャツの糊付けに使う「シャツ刷毛」などもそのひとつです。そして従来の板締めの刷毛に加え、毛の根元をブリキで巻いて作る「金巻刷毛」という刷毛の製造にも着手しました。糊付けや塗装など、用途の多い刷毛ですね。刷毛は職人さんが使う道具ですから。

工房は水戸街道に面していて交通量が盛んだったこと、周辺には家内工業などが多く、町工場も増え始めていたので刷毛を使う人との接点が増えていったんです。

ー創業から約30年経ち、時代は機械化へと進んでいきます。時代の変化とともに工房も刷毛からブラシへ、人から機械が使うものへと需要が徐々にシフトしていったといいます。

宇野さん:祖父の時代もはじめは、職人さんが使う刷毛やブラシを作っていましたが、機械化が進み、機械につく刷毛やブラシも作るようになっていったそうです。職人さんを育てて一緒に仕事をしていたので刷毛に加え、ブラシの要望にもスムーズに応えられたのだと思います。

時代は人が使う物から機械について使うものものへと需要がシフトしはじめ、お客さんの要望に応じた商品をつくることが増えていくようになったそうです。

本格的なブラシ製造が始まったのはポリッシャーという床磨きのブラシです。掃除屋さんが増えて掃除器具も機械化が進み、業者さんが使うブラシを作るようになっていきました。

父が継いでからは、工業用ブラシ(工場で使うブラシや産業機械に取り付けるブラシ)の製造が増えはじめました。

伝統技術の習得からすみだモダンへの参加

ー宇野さんが製造に携わるようになったのはいつ頃ですか?

宇野さん:家業なので時折手伝ったりはしていたのですが、父の体調が悪くなり、私もこの仕事をするようになりました。父から仕事を教えてもらいながらやっていると、だんだんこの仕事に興味を持ち始めて。それまでは家業を継ごうとは思っていなかったんです。父が亡くなってからは頑張って継続させていこうという気持ちでした。私は父が亡くなってからは、祖父とともに刷毛・ブラシづくりをしてきた母に教わりながら仕事をしてきました。そしてこの先を不安に思っていた時にフロンティアすみだ塾のことを教えていただき、入塾し9期生となりました。区内の色々な業種の後継者の方々に出会えたことは本当に励みになりました。その時には「すみだモダン」にも応募し、「静電気除去ブラシ」が認証されました。

ー工業用ブラシからお手入れブラシを作ろうと思ったのはなぜでしょう?

宇野さん:静電気除去ブラシは工場や産業機械などでよく使用されていてとても優れていたんです。暮らしの中でもOA機器やTVなど静電気がおこりやすく、日頃から静電気除去ブラシを使用していたので、その良さを伝えたいと思いました。

工場での作業には専用ブラシを使うことが多く、客先の要望を聞いて製作する受注生産商品が多かったんです。

また、新たなお客さんを増やしたいと考えていた時期でした。自社製品としてPRでき、なおかつ愛着を持って長く使ってもらえるものを作りたいと思っていました。

ー伝統工芸品の魅力を発信する「東京手仕事」では、デザイナーとのコラボレーションで「雅ブラシ」と「アニマルブラシ」を製作。「愛着をもって長く使える商品を作りたい」という宇野さんの想いによって誕生しました。

ーそれぞれの開発のきっかけを教えてください

宇野さん:雅ブラシはもともと、プロダクトデザインから商品開発・ブランド戦略のディレクションまでを行う、デザイナーの春名麻衣子さんがうちの携帯用ブラシをモデルに商品を考えていたらしいんです。

私も作るなら組子が素敵だなと思って。使うだけじゃなく置いておくだけで美しいインテリアとしてのブラシを作りたかった。ブラシだけを作ると実用品になってしまうけれど、置物としても素敵なブラシであれば、丁寧に長く使ってもらえるかなと考えました。

アニマルブラシは、インテリアや日用品の企画・デザイン・ディレクションなどで活躍する、デザイナーの馬淵晃さんが担当してくださいました。馬の形は馬の毛、山羊の形は山羊の毛というように、使用している毛が何の動物の毛なのかがわかるようにデザインされています。ボディブラシの身体を洗う用には馬毛で馬の形。馬も2種類で黒馬は硬めなので男性向けで少し大きめ。女性は柔らかめで馬のたてがみ。お顔の洗顔には山羊毛で山羊の形。つめブラシは豚毛で豚の形です。

人にわかりやすく伝えるためには形で表現した方がいいということで、分かりやすく説明できるデザインになっています。

動物モチーフなのでお子さんの情操教育にも役立ちますよ。

使う人の気持ちに寄り沿った商品づくり

ー「雅ブラシ」と「アニマルブラシ」はどちらも“手植え”で“天然毛”を使用してつくられた温かみのあるブラシ。 用途に合わせた素材選びはこれまでの刷毛・ブラシづくりの経験からきているといいます。

宇野さん:洋服ブラシも昔は豚毛でつくられていたんです。そして服地が変わるにつれ馬毛でつくられることが多くなりました。 私のところの「洋服ブラシ カシミヤ」という商品は馬の尻尾の産毛を使用しているので、とても柔らかく、服地を傷めることなくお手入れ出来ます。カシミヤ等のデリケートな素材にもとても向いているんです。硬い毛材ですと生地を傷めてしまうことがありますが、柔らかい毛材は硬い素材にも使えて万能なんです。それと同じくこの「雅ブラシ」にも“馬の尻尾の産毛”を使用しています。毛の種類についてはいろいろな素材を使ってきた経験が役立ちました。

やはり天然素材の方が肌に優しいですし、身体や洋服などをいたわった素材を使う方が、大切にできますよね。

私のところでは手植えのブラシを製作していたので、温かみのある素材と手作りの良さっていうのを伝えたいと思っていました。「一つ一つ良いものを」という気持ちで作っています。こだわってつくった商品ほど大切にしていきたいですね。

ー最後に、今後の展望についてお聞かせください。

宇野さん:これまでの商品はスタンダードなタイプが多かったので、さらにバージョンアップした商品を作りたいです。

「欅シリーズ」という欅の木を使った商品があるのですが、シリーズ化していけるようなものも作りたいなと思っています。

そして、これからも使う人のためのものづくりを心がけていきたいと思います。

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文・構成/やまちの

このコラムを書いた人

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