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「よく切れて、研ぎ直せば一生使えるはさみ」を届けたい

2021年11月17日更新

50年以上にわたり墨田の土地で医療用鋏(はさみ)を作る石宏製作所。創業者である父の代から現在まで、てづくりの鋏にこだわり続けています。今回は二代目である石田明雄さんに、創業からの鋏づくりにかける想いを伺いました。

医療用のはさみづくりで培った職人技術

ー石宏製作所の歴史についてお伺いしてもよろしいですか。

石田さん:石宏製作所は、1970年に私の父が創業しました。父はもともと、広島の尾道出身でした。兄と一緒に東京に出てきて、はさみの工場に修行に入りました。その後、独立したという流れです。私自身は1992年にこの世界に入りました。23歳の時です。

ー創業時はどういったものを作られていたのですか?

石田さん:当時は兄からはさみつくりの仕事を回してもらってもいたようで、ジュースミキサーの刃付けをしていたと聞いたことがあります。そのうちに、同業者の方から「医療用のはさみ作りを手伝ってくれないか」という話があり、問屋さんを紹介されました。

医療用はさみは、免許を持っていないとお医者さんに売れません。ですので、問屋さんを通して販売しています。現在は医療用のはさみの制作がメインで、一般の方向けにもはさみを作っています。

ー医療用のはさみを作っている会社は珍しいのでしょうか。

石田さん:うちは日本鋼製医科器械同業組合というものに入っています。同組合に所属していてはさみを作ってる会社は都内では7〜8件でしょうか。墨田区ではうちともう1件ある程度ですね。

医療用はさみは用途によって様々な形・大きさのものがあります

ー医療用のはさみは通常のはさみと比べて素材などの違いはあるのでしょうか?

石田さん:はさみの内側のことを「裏刃」というんですが、裏刃の研ぎ方次第で、細かい線が残ってしまいます。医療用のはさみはその線が残らないよう、丁寧に磨かないといけないんです。確実に切れるように滑らかに動かないといけません。途中で熱処理も施しているので、通常のはさみより耐久性が高いのも特徴です。

ー医療に使うはさみは、文房具のはさみとは大きく違うのでしょうか?

石田さん:違いますね。手術が終わるごとに洗浄しますし、消毒もします。なので耐久性もないといけません。あとは錆びにくいというのも特徴のひとつですね。

切れ味が落ちたはさみは、研ぎ直します。はさみのネジを外して分解し、それぞれの刃の内側を磨きます。はさみはネジ留めになっているのですぐ外せるようになっています。

スカイツリーのテープカットで一躍有名に

ー一般用のはさみを作り始めたきっかけを教えてください

石田さん:医療用のはさみを作って問屋さんに卸しても、どう使われているか分からないんです。作っているうちにだんだんと、「どうやって使ってもらっているんだろう?本当に自分の作ったはさみはいいのだろうか?」と、ユーザーの声を聞きたくなったんです。

そんな時にちょうど”すみだモダン”の認証制度が始まるという話を聞きました。翌年の2011年に初めて申し込み、認証していただきました。やっぱり認めてくれるというのは嬉しかったですね。

それがきっかけで今度は、スカイツリーオープンのテープカットでも使っていただけることになりました。2012年ですね。最初に電話がかかってきた時、「嘘かな?」と思いました(笑)。うちのはさみを使ってくれるんだ、と家族で喜びました。

当日は小雨が降っていましたが、たくさんの人が見にきていました。一回で切れなかったらどうしようと思いながら後ろのほうで緊張しながら妻と見ていたんです。スパッと切ってくれ、ほっと胸を撫で下ろしたのを今でも覚えています。

ーテープカットのはさみは専用のものを作られたんですか?

石田さん:すみだモダン認証の裁ち鋏です。後になって「なんでうちなんですか?」と選ばれた理由を聞いたら、テープカットをするなら墨田区で作っているはさみを使いたいという話しがあったそうです。本当に嬉しかったですね。

すみだモダン認証の裁ち鋏

ーその後の反響はいかがでしたか?

石田さん:いろいろなところから電話がかかってきました。印象に残っているのは、お昼の情報番組で紹介していただいたことです。生放送で使いたいので貸して欲しいと連絡があり、はさみをお貸ししました。

テープカットから数時間後にはテレビの生放送に取り上げられ、そこから1週間近くは電話が鳴り止まない日々でした。「テレビでやったやつをください」との注文電話を受けて、ただ住所を書くだけでも大変でしたね。テレビの力ってすごいなと感じました。

ーそこから生産が追いつかない状態に?

石田さん:最初から追いついてないんですが、更に追いつかなくなりました。そんなにはさみを求めている人がいることが信じられなかったです。

ーご家庭用で使いたい方が多かったのでしょうか?

石田さん:そうですね。思い出の品として記念にとっておきたいという方もいました。刻印を打ってもらえませんか?という要望もあります。

はさみは、100円ショップなど、どこにでも売っています。それをわざわざ買う人っているのかなってちょっと疑っていた部分があったんです。

でも、お客さんから「よく切れて気持ちいい」と言う言葉をたくさんいただいて。特に体験しにきてくれる方に「すごい!」って驚いてもらえて、反応を見るのが楽しいんですよ。

すみだモダンで参加させていただいた展示会でも、たくさんの方とお話できました。実際に手に取って触っていただける、こういったきっかけがなければ知らない世界だったのでありがたかったですね。

ー すみだモダンに認証されている「職人が大切な人に贈ったはさみ」はとても変わった商品名ですね

石田さん: もともとは妻につくったはさみだったのですが、評判が良かったので商品化しました。普段用は食卓で肉を切るのにも使いやすく、また、2つに分解することができるので、汚れてもきれいに洗うことができます。

携帯用は切れ味はそのままに刃を短くし、持ち運びしやすいサイズにしました。刃先を丸くしているので、ポーチやポケットに入れても安心です。

「はじめの工程こそ丁寧に」にこだわる

ーものづくりのこだわりについても教えてください。

石田さん:仕事を始めたばかりの頃は手を抜くことばかり考えていました。でも手を抜くと完成しないことも分かってきて(笑)。最初に手を抜くと、後になればなるほど直しづらくなります。収集がつかなくなって製品にならないことも多々ありました。

それでやっと、最初の方こそしっかり作り込んでいかないといけない、注意しないといけないんだと分かりました。最初の工程を疎かにすると、途中で熱処理を施す際に硬くなってしまうんです。叩いても元に戻らなくなるし、叩き過ぎると折れちゃうので、熱処理をする前にしっかり形を作れるかが大事。丁寧に作業をするのを常に意識するようにしています。それがこだわりですね。

ーお客様の声から作られた商品はありますか?

石田さん:個人の方から相談も増え、最近では眉毛カット専門サロンから「会社専用のはさみを作ってください」と依頼がありました。

その他にもフルオーダーで作ることもあります。以前、刺繍をやっている方から「今まで使っていたはさみが切れなくなったので、同じサイズで1丁作って欲しい」と相談がありました。写真をいただいて、持ち手は何センチ、刃の部分は何センチと確認し、同じものを作りました。そういった小回りが利くのは、一人でやっているからこそなのかなと思いますね。

研ぎ直せば、はさみは一生使える

ー新しい商品などは考えてますか?

石田さん:商品化までは動いていませんが、アウトドアなどで使えるんじゃないかなと思って考えたものはあります。裁ち鋏を、医療用のはさみのようにネジが外せるようにして、刃を短くしました。汚れてもさっと洗えますし、キャンプやバーベキューで使えたら便利だろうと思って。町工場見本市に参加したときに展示したら、いいですねって声もいただいきました。

ー今後、やりたいことなどがあれば教えていただけますか?

石田さん:とにかく続けることですね。私の作ったはさみを使っているお客様から「切れなくなったので研ぎ直してください」と言ってもらえることがすごく嬉しいんです。その言葉を励みに、生きてる限りは続けていきたいですね。

「研ぎ直しをすれば、はさみは一生使えますよ」と言う石田さん。一つ一つ心を込めて作られたはさみには、長年培った技術とこだわりが詰め込まれています。妥協しないものづくりへの姿勢もひしひしと感じられました。一生使えるはさみ、ぜひ手にとって欲しいアイテムです。

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文・構成/ヤマチノ

このコラムを書いた人

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