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手作業での製造と、時代に合わせた商品開発の2軸で進める谷口化学工業所の挑戦

2024年07月24日更新

靴クリームメーカーとして日本最古の歴史を持つ谷口化学工業所の、「自然から作ったシリーズ」は2023年のすみだモダン認証商品です。同社は114年間、手作業での製造にこだわりながら、靴クリームを中心とした革ケア製品の開発やワークショップの企画運営、そして海外進出など積極的な挑戦を続けています。

今回は谷口化学工業所の代表である谷口さんに、会社の歴史やこれまでとこれからの挑戦についてお話しいただきました。

114年の歴史を持つ日本最古の靴クリームメーカー

ーまずは会社の歴史について教えてください。

創業は1910年、明治43年で今年で114年目の会社になります。1904年に始まった日露戦争をきっかけに革でできた軍用ブーツが出回り、靴クリームの需要が高まったところから谷口化学工業所は始まりました。革は頑丈ですが、乾燥すると硬化してしまうため長く履き続けるためには専用のクリームが必須だったのです。

正確な記録があるわけではありませんが、曽祖父が書いた自伝によると、第二次世界大戦中は一時期京都へ避難し、東京が復興してきたタイミングで戻ってきて蔵前に本社を設立しました。

テレビCMを放映していたことも

その後、蔵前の社屋が手狭になったことと、墨田区にあった社員寮の老朽化に伴う建て直しをきっかけに本社機能も墨田区に移転しました。

ー靴クリームメーカーとしては最古とのことですが、現在は靴クリーム以外にも行われている事業はあるのでしょうか。

靴クリーム以外にも、革製品に使っていただけるレザーケア商品の製造販売も行っています。

また、一昨年からは木材塗料の製造販売もスタートしました。

靴クリーム製造で培ってきた技術により生まれた木材塗料「クロマニョンペイント」

一見異なるジャンルのように感じられるかもしれませんが、革に色をつけるのが得意なので、その技術を活かしながら、DIY専用の木材塗料の開発を行っています。

その他には、レザーケア文化の普及を目的とした、大人向けの靴磨きのイベント、子ども向けにレザーケアクリームを作るワークショップやお父さんの靴を磨くイベントなども開催しています。革に触れ、親しむ機会を作ることで、革の魅力をたくさんの人に知っていただけたら嬉しいです。

革・人・環境に優しい、三方よしな「自然から作ったシリーズ」

ー今回、すみだモダンに認証された商品及び活動について教えてください。

製造背景や私たちの思いを発信することを目的に開発した「自然から作ったシリーズ」をすみだモダンに認証いただきました。これは、靴磨きを含めた製品のあり方を変えていく必要を感じたことがきっかけで生まれたシリーズになります。

レザーケア商品は一般的に自然由来のものを使うことが多いのですが、化学物質も一部含まれています。それらを排除することで、革にも、環境にも、人にも優しい製品を作りました。レザーケア商品は手につくこともあるので、より安心して使っていただける製品となっています。

ー製造背景や思いを発信することを目的とされたのはどういった経緯があったのでしょうか。

革靴及び靴クリームの歴史を振り返ると、軍用ブーツ中心の軍需産業だった時代に始まり、高度経済成長期で革靴が消耗品となっていた時代もありました。現在はスニーカーを履く人が増え、革靴は大事な場面でしか履かない趣味嗜好品となっています。こういった時代の変化から、その時代に求められている製品の開発が必要だと感じたのです。

「自然から作ったシリーズ」は2つのテーマを掲げて開発しました。

まず一つは、環境への負担を考慮すること。2020年に開発を始めたのですが、ちょうどSDGsやサスティナブルというキーワードが世の中に浸透してきたタイミングでもありました。自然由来の原料で作ることで、持続可能性を意識して環境に負担をかけない製造を検討しました。

もう一つは環境保全の観点を大事にすること。「自然から作ったシリーズ」では今まではジビエ肉として使用できず、廃棄されていた北海道のエゾシカの油を活用しています。

自然由来のため、手で溶かしながら塗ることができます

実はジビエ肉は食用にできず廃棄されるケースが多いことで有名なのですが、エゾシカの油は浸透性が高いためレザークリームに適しています。臭みもなく、テクスチャーも良いため、北海道ではヘアトリートメントにも活用されているようです。

手作業で作ったこだわりの靴クリームを海外へ

ーものづくりにおいて大事にされていることを教えていただけますか。

100年以上前から手作業での製造を貫いている点です。攪拌機(かくはんき)などの機械は使用していますが、充填や検品など全ての工程で必ず人の手が加わっています。手作業で行うことのメリットは、製品としての美しさを表現しやすいことです。一つひとつの製品に思いを込めて手で作ることを優先しているため、結果的には不良品がかなり少ないのが特徴だと思います。

手作業が多いため、生産できる個数には限りがあります。しかし小ロット生産だからこそ、オリジナルのカラーや香りなど希望に合わせた細かいカスタマイズ生産が可能で、それが私たちの強みにもなっています。

ー今後、注力していきたいことや目標などがあれば教えてください。

海外展開により注力していきたいと考えています。一昨年からはタイで、昨年からは台湾での販売がスタートし、少しずつ海外のお客様も増えてきました。今年はイタリアの展示会に出展を予定しており、ヨーロッパでも販売をスタートできればと思っています。

海外での販売に挑戦することで、日本製に対する信頼と期待を感じる場面が多くあります。これは前の世代の方々がこだわったものづくりと丁寧な対応を続けてきてくれたからこそのことなので、感謝の気持ちでいっぱいです。私たちも次の世代の期待に応えられるようなものづくりを続け、海外でも評価してもらえるよう尽力していきます。

このコラムを書いた人

スタイルストア 編集室

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